Harvest Park主催者インタビュー
“美味しい”と“楽しい”からはじめる、美しい里山への第一歩。
いよいよ開催まで1ヶ月あまりとなったHarvest Park。シンガーソングライター・Caravanと、八一農園・衣川晃。音楽と農業というジャンルを越え、ふたりはいまなぜ、里山公園をフィールドに手作りの“収穫祭”を開催するのか。その想いに迫った。
茅ヶ崎の光と影に触れて
Harvest Parkの構想が始まったのは、4年ほど前。ふたりが米づくりを始め、八一農園主催のイベント「サラダパーティ」でCaravanがライブをするなど、親交を深める中でのことだった。里山公園にほど近い八一農園で共に時間を過ごし、田園風景の美しさを共有する中で、「野外で美味しいものを食べて音楽を聞いて過ごせる、Caravan主体のフェスのようなものができたら」と、夢を描くように話していたという。
その後、社会はコロナ禍に飲み込まれ、大きなイベントはおろか、外出さえもままならない状況に。そしてふたりが目にしたのは、美しい里山の景色とは真逆の光景だった。
Caravan:時に車が田んぼの脇に捨てられていたり、洗濯機や冷蔵庫が普通に転がっていたり。つい最近も、バスタブが捨ててありました。里山公園の周りで農業を生業として現場に立っている人たちが悲しんでいるという話を聞いて、これは闇の部分だなと。光が当たらない部分がどんどん影になっていく。茅ヶ崎の海だけじゃなく里山の方にも光が当たればいいなと感じるようになりました。
衣川:茅ヶ崎はやっぱり海の街というイメージがありますよね。でも大山と富士山と田園風景の美しい茅ヶ崎を僕らは発見しちゃって。これは知らない人が多いし、美しさと対比するようにゴミが目立つことに気づいちゃったんですよね。
「多くの人にここに実際に来てもらって、美しい景色を発見してもらうことで、ゴミを捨てる人も減るのではないか。『いいところなんだ』という思いが意識下にあるだけで変わることもあるのではないか」という想いがふたりの中で膨らんでいき、里山公園のスタッフとも話し合いを重ねる中で、ようやく2023年、イベント開催が決まった。
花火を上げたいわけじゃない
Harvest Parkの開催は、11月3日。文化の日に開催したいという想いは構想の初期段階からあったという。
衣川:音楽はもちろん、農業や食べ物を作ることも文化、カルチャーだと思いますし、茅ヶ崎はサーフカルチャーも含めて文化発信の土地だと思う。僕の中には、たくさんの子どもたちがCaravanのライブを見てかっこいいなって憧れて、そこから新しいミュージシャンが生まれるようなイメージがあって。ちょうど僕らのお米の収穫時期でもあるんですよね。
Harvest Parkというネーミングも、初期段階から決まっていた。収穫祭を意味し、Caravanの事務所の名前でもあるHarvest。それに、会場が公園であるということ、さらに、上下関係も境界もなく誰も排除しない空間としてのParkをつけた。
Caravan:「〇〇フェスティバル」ではなく、みんなのものである公園。コモンなものにしたいなって。僕らはパーティをしたいわけではないんです。
衣川:そう、花火を上げたいわけじゃない。日常のワンシーンにお祭りが入ってきた感じで、いつもの公園に、その日は音楽があって、子どもの遊べる空間があって。
Caravan:普段の里山公園がちょっと1日姿を変えて、スペシャルな公園になるようなイメージを抱いています。
「花火を上げたいわけじゃない」というスタンスはふたりの地道な行動からも受け取ることができる。2023年6月より、里山エリアで活動する仲間やボランティアと共に月1回の「里山クリーン」活動をスタートさせていた。拾ってもまた1ヶ月後には新たなゴミが捨てられている不法投棄の現実に触れ、Harvest Parkの意味合いも色濃くなってきた。イベントの翌日も、すぐにクリーン活動を予定しているという。
衣川:やる前よりも会場をきれいにして返したいじゃないですか。当日ももちろんゴミ拾いをしますが、翌日の里山クリーンで日常に戻ります。
Caravan:日常という意味では近隣の農家さんや住民のみなさんに「またやってね」って言われるような馴染み方ができたら嬉しいですね。里山クリーンでもコミュニケーシ ョンをとりながら活動していますが、「あの子たちがやるイベントなら安心だね」って言ってもらえるような関係性になれたらいい。
イベントをやる意味、そしてメッセージは明確にある。ただ、それを押し付けたり振りかざすのは違うとふたりは語る。
衣川:地域貢献は僕らの中でめちゃくちゃ大事なテーマで。僕は意識の高い方ではないですが、海で育っているので環境のことは普通に大事だという感覚がある。そういうことも自然なコミュニケーションで伝えられたら。
Caravan:感じ方や受け取り方はそれぞれでよくて、あくまでも「美味しい・楽しい」と感じた先にある正しさだと思うんです。僕ら自身がまず楽しんでやる、その向こう側に伝えたいことがある。だから純粋に音楽や食を楽しんでもらえたらと思っています。
自分たちの手で舵取りを
今回Harvest Parkの軸となっているのは「食」「農」「音楽」。「農」は、八一農園とつながりのある有機農家の野菜販売を、「音楽」はCaravanと親交の深いミュージシャンのライブを楽しめる。そして「食」に関しては「選べる」ということを大事にしているという。
衣川:食べない人はいませんよね。でも、僕のようなプラントベースの人間は、音楽フェスに行くと食べるものがなかったりします。Harvest Parkでは、いろいろな嗜好の人が選べることを大事にしたい。何を食べるか選んでほしいんですよね。
Caravan:普段お肉を食べる人もここでヴィーガンフードを食べてみて、美味しかったから1週間に一度ヴィーガンにするという選び方もあると思っています。
そういった出店者への声がけもふたりが行い、すべて手作りで準備を進めている。イベントづくりのプロではないふたりにとって相当手間のかかることだと想像するが、ふたりからはその苦労が微塵も感じられない。むしろ当日への道のりを大いに楽しんでいるように見える。
Caravan:僕らは音楽でも畑でも、インディペンデントな活動をしてきたので、基本的に自分達の事は自分達でやるもんだと思っていて。僕らも全貌を把握したいし、舵取りを自分たちでしていきたいと自然に思っていました。
衣川:面白いのが、僕ら八一農園とCaravanで話が弾み、協力してくれそうな人の顔が次々に思い浮かんで声をかけて、仲間が集まってきてくれていて。しかもそれが最高のキャスティングなんです。
事務局は現在、12〜13人ほどで運営している。「みんな気持ちで動いてくれている。ふたりだけじゃ絶対に無理なことだらけで、チームに支えられている」とCaravanが語る通り、ふたりの想いに共感した仲間が集い、役割分担で準備を進めている。ゴールイメージよりもプロセスを大事に楽しみながら行動を積み重ねるその姿が仲間を呼び、Harvest Parkというひとつのうねりを形作っているようだ。
美しい里山への第一歩を、共に。
今年初回を迎えるHarvest Park。継続的な開催を見据えつつ、「今年はまず開催することが目的」とCaravanは語る。
Caravan:開催に漕ぎ着けたら僕らとしては十分で。叱咤激励もいろいろといただくと思いますが、フィードバックを大事に一つひとつ味わって、ブラッシュアップしていきます。一発目で完璧なものは無理ですし求めていません。
最後に、そんな第一歩を共にする来場者への、お願いとメッセージを聞いた。
Caravan:このエリアをきれいにしたくてやるイベントなので、ゴミをできるだけ持ち帰ってほしい、出さないように努力してほしい。これは出店者とも共有していることです。みんなもマイ箸やマイカップ、お皿などを持ってきてもらえたら。
衣川:今回はゴミ箱を置かないことに決めました。出店者さんには極力ゴミの出ないように、出てしまう分は回収を徹底するようにお願いしています。僕らの想いが細部に宿っている、その想いのパワーを見てみたいですね。
Caravan:とはいえ、まずは難しいことを考えずに楽しんでください。楽しかったというハッピーなバイブスが溢れると、気持ちがちょっといい人になって、ゴミも持って帰ろうという気持ちになると思うから。楽しんでいただけたら!
11月3日、美しい里山のための第一歩を、共に。
ふたりのぶれない思考とスタンスに触れ、秋が深まる里山公園に広がるピースフルな光景が見えた気がした。
text by 池田美砂子