あの光景を、今年もあの場所で。
2回目の”心の収穫祭”を前に、今思うこと。
Harvest Park主催者インタビュー
2023年11月3日、初開催されたHARVEST PARKから1年。今年も同じ日、同じ場所での開催が発表されました。主催者であるシンガーソングライター・Caravan、そして八一農園のファーマー・衣川晃に、改めて今の心境を聞きました。
ただ「駆け抜けた」1年目
ー今年もいよいよ11月3日が近づいてきました。第1回、2023年のHARVEST PARKは、おふたりの中にどのような記憶として刻まれていますか?
その後、社会はコロナ禍に飲み込まれ、大きなイベントはおろか、外出さえもままならない状況に。そしてふたりが目にしたのは、美しい里山の景色とは真逆の光景だった。
Caravan:それまで構想をあたためていた期間が長かったので、「ようやくこの景色が見られた」という感覚でした。それとともに、本当にたくさんの人の力を借りて積み上げたものが形になって、みなさんの笑顔だったり、子どもたちがすごく楽しそうに遊んでいたり、恐竜のシロが歩いていたりする姿を見て、胸が熱くなって感極まったものがありました。本当に「駆け抜けた」って感じでしたね。
2023年のHARVEST PARKで場内を闊歩した「うちのシロ」 (photo by 牧野 弘)
晃:そうだね、僕らの頭の中にあったものが具現化されて、みんなに見てもらえたし、僕らも見られた。それを見せたかったし僕らも見たかったので、すごく良かったですね。
Caravan:そういう意味で今年は、昨年の反省点も踏まえながら、あの景色をもう一度つくれるのかというチャレンジでもあると思っています。
2023年、初開催にして大盛況のうちに幕を閉じたHARAVEST PARK(photo by 牧野 弘)
地域の人たちとともに、新しい風を。
ーそんな昨年の記憶と経験を携えて、今年は当日に向けてどんな歩みを積み重ねていらっしゃいますか?
Caravan:エネルギーやお金の面などもちろん大変なこともありますが、今年も多くのみなさんにご協力いただき概ね順調に準備を進めています。今年はありがたいことに、公園の方や市長さんも含めて、地域の人が新しいアイデアを持ち込んでくれているんです。もちろん僕らの描いている世界観は変わらず大切にしたいので、「なんでもやりましょう」というわけではないのですが、新しい出会いを楽しみながら僕らの波長に合うものを取り入れています。そういう意味で今年は、より地域性が出てくると思います。
ー象徴的なものとして、オープニングで香川小学校の子どもたちの合唱がありますね。
晃:子どもの声はいいですよね。彼らには、Caravanのステージの中でコーラスとしても登場してもらおうかなとも考えています。
ーそれは子どもたちにとってスペシャルな体験ですね!
晃:うん、文化の日ですしね。子どもたちにとっていい体験になって、その子たちの未来につながるといいですよね。来年は他の学校が登場してもいいですし、これがきっかけとなって次の新しいアイデアにつながる予感がしています。地域とのコラボレーションは元々HARVEST PARKのビジョンにあったことなので、それがまたひとつ実現しますね。
ー香川小学校をオープニングに、音楽ステージはガラリと出演者が変わりましたね。
Caravan:毎年ラインナップを変えていきたいなって思っているので、今年もゆっくり自分の中で時間をかけて考えて、お声がけさせていただきました。茅ヶ崎でこの人の歌が聴けるんだっていう面白さもあると思うので、新しい風を持ち込みたいですね。
ー食と農に関しても、昨年同様にこの地域で活躍されている魅力的な出店者さんたちが名を連ねていますね。
晃:そうですね、食に関してはプラントベースをもう少し充実させようと考えていますが、今年もどんな嗜好の人も食べるものを「選べる」という状況をつくれたらいいなと思っています。農に関しても、野菜やお米など、今年も僕らと関わりのある農家さんに出店していただく予定です。
不便さも楽しむ1日に
ー一方で先ほどおっしゃっていた「反省点」というのは、どのようなものになりますか?
Caravan:昨年は「食と農と音楽」を掲げながら、食に関してはあまりにも早い時間に売り切れてしまって、せっかく来てくれたのに申し訳なかったなと。今年はもう少し充実させられたらと思っています。
晃:ただ、食に関して言えば午後2時や3時に全部売り切れるというのは理想的な状態ですし、過剰に用意しすぎるのは違うと思っているんです。
ー確かにフードロスのことを考えると、売り切れもポジティブに捉えられますね。フリーで開催するイベントの趣旨と照らし合わせても、こちらからケアしすぎない方がいいのかもしれません。
晃:うん、なんでもサービスするものじゃないなと思っています。営利目的でやっている訳じゃないから、大変さをシェアするといいますか、「あの楽しさをまた味わいたいからみんなも一緒に努力する」っていうのもいいかなと。里山という不便な場所であの環境をつくるために最大限のことはこちらでやりつつ、回らない部分に関しては「不便を楽しんでください」ってこれからも言い続けたいなって思いますね。
Caravan:シャトルバスも駐車場も台数は限られているけど、去年は「駅まで歩いて帰った」って声もありましたからね。
晃:寒川駅から徒歩50分ほど。毎月、里山クリーン(会場周辺のゴミ拾い活動)で僕らは1時間歩いていますが、そんなに遠くないんです。その時間も含めて楽しんでいただけたら嬉しいですね。
ーそうやって参加者のみなさんがフリーでイベントに参加する代わりに不便さを受け入れたり、ボランティアやドネーションで貢献すると、みんなにとってより「自分ごと」になり、本当の意味でみんなのHARVEST PARKになっていきますね。
晃:そうですね、本当に多く人の支えで成り立っている素晴らしいイベントなので、みなさんもそれぞれのスタンスで参加してもらえたら。お金に関しては僕らは多くを求めていなくて、その時出せる人が出せばいいと思っているんです。ドネーションじゃなくてお店でお腹いっぱい食べてもいいし、もちろん食べずに公園で遊ぶだけでもいいし。
Caravan:昨年はシャトルバスを最低500円というかたちでドネーション制にしていましたが、中には1万円払ってくれたり、払いながら「ありがとう」って言ってくれたりする人がすごく多かったと聞いています。そうやってフェアにトレードできていれば、お互いに「ありがとう」という気持ちでその日を終えられる。金額の大小じゃないから、そこはみなさん無理しないでもらえたら。
晃:みなさんに差し出してもらったら、僕らがそれを受け取るというのもすごく大事な作業だと思います。普段僕らは経済活動をしているので、ちょっとそこから脱出して、「応援」や「助け合い」を体感する1日にもなるといいですね。
文化として根付き、次の世代へ。
ー継続といえば、里山クリーン活動は、昨年6月から地道に毎月継続されて1年半になりますよね。活動を通して見えてきた景色があれば教えてください。
晃:このエリアの不法投棄は相変わらずで、すぐに現状は変わらないなというのが正直な印象です。でも子どもたちがたくさん参加してくれていて、一緒に活動している「ふるさとファーマーズ」のマサくん(石井雅俊さん)の言葉を借りると、「この原体験は少なくとも未来を変えているね」って。
里山クリーン活動の様子
Caravan:ゴミ拾いってネガティブなアクションではありますが、子どもたちはそれをすごく楽しんでポジティブなものに変換している感じがあって、その姿にハッとさせられます。続けて参加している子たちにとっては「落ちてたらゴミ拾おうよ」っていうのが当たり前になっているので、今目の前の世界は変わらないかもしれないけれど、近い未来、何かがちょっとずつ変わっていくかもしれないなとは思います。
晃:今年はHARVEST PARKの環境ステージで、里山クリーンにも参加してくれた高校生の環境活動家の子と一緒に話せたらいいなと思っています。大人よりも子どもたちが環境のことを話す方がよりリアルですしね。
ー子どもたちが未来を変えていく、それはHARVEST PARKを継続した先のイメージでもあるのでしょうか。
晃:そうですね、僕らはHARVEST PARKを10年続けようと思ってやっていますが、それは「広げよう」というよりは、文化として「根付こう」としているイメージなんです。
Caravan:植物も地中に目に見えない根っこの部分があってそれがないと倒れちゃうわけで、見えない部分にこそ大切なものがある。イベントは華やかな部分ばかりをつい表現しちゃうけど、僕らはちゃんと地に足をつけて信念を持ってやっていきたい。それが文化として根付くということなのかなって。
晃:そう、無形文化財としてね(笑)。僕はこの地に根を張る覚悟で農業を始めましたが、HARVEST PARKも覚悟を持ってやっていて、10年続けて次の世代にパスしていくイメージを持っています。それこそ、今年参加してくれる香川小学校の子が20歳になったときに引き継いでくれる可能性もあるじゃないですか。そんなことが起きたら面白いですよね。
Caravan:そうやって後継者さんたちが出てきて、HARVEST PARKがまちのイベントとして残っていったらすごく嬉しいですね。
世界が不安だからこそ、平和な1日を。
ー今年は能登半島沖地震に始まり、水害など気象災害も多く気候変動を感じる1年でしたね。一方で人的な戦争や紛争も繰り返されていて、社会情勢はますます厳しいと感じます。そんな中でのHARVEST PARK開催。何を思いますか?
晃:僕自身は地球温暖化を緩和させるためにアイスクリームブランドSOYSCREAM!!!を本格稼働させた年でしたが、はからずも今年はめちゃくちゃ暑かったじゃないですか。このタイミングにはまってしまっていることがもう偶然じゃないと思っていますし、僕らは環境問題に取り組める最後の世代だと思うんです。逆に言えば、みんながその解決に向かう立役者になれるし、ヒーローになれるチャンスの時代でもある。そうポジティブに捉えていますね。
Caravan:僕自身も年明けから不穏な気持ちの中で過ごす日々でしたが、できることは変わらないし、HARVEST PARKには、そういう日々の集大成として全てがつながっています。それこそ秋の収穫祭ですよね。日々何かを感じてもがいてつくり上げてきた気持ちを持ち寄る、心の収穫祭。世界が不安だからこそ、やっぱりこの日この空間はめちゃくちゃ平和であってほしいなっていう気持ちもあるので、自分たちのイメージする「平和」や「楽しさ」や「美しさ」を表現したい。結局それができないと世界は変えられないと思いますし、来てくれた人が「今日は楽しかったね」って思える日になればいいですね。
ー最後に2年目のHARVEST PARKを楽しみにしているみなさんに、メッセージをお願いします。
晃:HARVEST PARKの絵のピースとして一番大事なのは一人ひとりの笑顔だと思いますので、ぜひ遊びに来て、その絵を完成させてもらえたら嬉しいです。
Caravan:シンプルに、里山公園やこのエリアの美しさを味わってほしいなって思います。海が茅ヶ崎のA面だとしたらこっちはB面。A面も好きだけど、B面も意外といい曲あるよ、聴き込むとB面深くない?ってね(笑)。楽しんでください!
text by 池田美砂子